最高裁判所第一小法廷 平成3年(行ツ)69号 判決 1994年1月27日
上告人
栃木県知事
渡辺文雄
右訴訟代理人弁護士
谷田容一
右指定代理人
根本源庫
外四名
被上告人
西房美
右訴訟代理人弁護士
秋山幹男
三宅弘
近藤卓史
飯田正剛
主文
原判決主文一1のうち次の部分を取り消し、右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
上告人の被上告人に対する昭和六一年一〇月一五日付け昭和六〇年度知事交際費現金出納簿の非開示決定のうち原判決添付別表記載の「相手方が法人その他の団体」欄の二一九件に関する情報が記録されている同出納簿中の部分についてこれを非開示とした部分を取り消した部分
上告人のその余の上告を棄却する。
前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人谷田容一、同鈴木宗男、同長嶋敏夫、同江連勝明、同国政英夫の上告理由について
一原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、栃木県公文書の開示に関する条例(昭和六一年栃木県条例第一号。以下「本件条例」という。)五条一項一号に基づき、本件条例の実施機関である上告人に対し、昭和六〇年度の栃木県知事の交際費の金額及び内容を知り得る公文書の開示(閲覧及び写しの交付)を請求したところ、上告人は、昭和六一年一〇月一五日、右請求に対応する公文書としては、知事交際費の総額を示す「返納票兼清算票」二通のほか交際費一件ごとの具体的な支出金額及び内容を示す「現金出納簿」一冊(以下「本件文書」という。)がこれに当たるとした上、「返納票兼清算票」二通はこれを開示したが、本件文書については、そこに記録されている情報が公文書の非開示を定めた本件条例六条のうち一号、二号、四号及び五号に該当するとして、これを開示しない旨の決定(以下「本件処分」という。)をした。
2 本件文書に記録されている知事の交際事務に関する情報は、封筒代、葉書代等に関するものを除き、合計四二二件であり、これを支出項目別、交際の相手方別に分類すると、原判決添付別表記載のとおりとなるが、そのうち、交際の相手方が個人であって相手方が識別されるものが一七〇件、識別されないものが三三件であり、また、相手方が法人その他の団体(以下「法人等」という。)であるものが二一九件である。
3 本件条例六条は、「実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の開示をしないことができる。」と定めており、その五号に、「県の機関又は国等の機関が行う検査、監査、取締り、争訟、交渉、入札、試験その他の事務に関する情報であって、当該事務の性質上、公開することにより、当該事務若しくは同種の事務の実施の目的が失われ、又はこれらの事務の公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれのあるもの」が規定されている。
二原審は、右の事実関係の下において、本件文書に記録されている四二二件の情報は、いずれも本件条例六条五号に該当するものとはいえないと判断した。その理由は、右四二二件の情報に関する交際事務は、右五号前段にいう「その他の事務」には該当するが、場合によっては、知事との交際が公表されたことを名誉に思う者もあるであろうし、また、交際の事実を公開したことにより不快等の感情を相手方に生じさせた場合でも、その程度は交際事務の実施の目的を失わせる等の結果を招くほどに強度のものではないことも多いはずであるから、右の交際事務に関する情報が右五号後段の要件に該当するというためには、その要件の存在が個別、具体的に立証されなければならないところ、本件においては、右の点について具体的な立証がないというのである。
三ところで、原審は、右四二二件の情報のうち交際の相手方が個人であって相手方が識別される一七〇件の情報については、これが個人のいわゆるプライバシーに関する情報の非開示を定めた本件条例六条一号に該当するとの理由で、本件処分のうち本件文書中の右情報が記録されている部分に関する部分については、結局、これを適法としている。そうすると、当審としては、本件処分のうち本件文書中のその余の二五二件の情報が記録されている部分に関する部分に限って、原審の判断の適否を検討すべきことになるところ、原審の右判断については、右二五二件の情報のうち交際の相手方が個人であって相手方が識別されない三三件の情報が同条五号に該当するとはいえないとした点は是認できるが、交際の相手方が法人等である二一九件の情報がすべて同号に該当するとはいえないとした点は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 知事の交際費は、都道府県における行政の円滑な運営を図るため、関係者との懇談や慶弔等の対外的な交際事務を行うのに要する経費である。このような知事の交際は、本件条例六条五号にいう交渉その他の事務に該当すると解されるから、これらの事務に関する情報を記録した文書を開示しないことができるか否かは、これらの情報を公開することにより、知事の交際事務の実施の目的が失われ、又はその公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれがあるか否かによって決定されることになる。
2 本件文書のうち、交際の相手方が個人であって相手方が識別されない知事の交際事務に関する三三件の情報が記録されているものについては、これを開示しても、これによってその交際の相手方の氏名が明らかにされるものでない以上、相手方に不満、不快の念を抱かせるような事態を招くことは考え難く、知事の交際事務の実施の目的が失われ、又はその公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれはないというべきであるから、その本件条例六条五号該当性を否定した原審の判断は相当である。
3 しかし、本件文書のうち、相手方が法人等である二一九件の情報が記録されているものは、祝儀、慶弔、広告、賛助金、贈答品、みやげ等に関するものであり、その中には、相手方の名称等が記録されているものがあり、また、一般人が通常入手し得る関連情報と照合することによって相手方が識別され得るようなものが含まれていることも当然に予想される。そして知事の交際は、いずれにしても、相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行われるものであるところ、相手方の名称等の公表、披露が当然予定されているような場合等は別として、相手方を識別し得るような前記文書の開示によって相手方の名称や支出金額が明らかにされることになれば、交際費の支出の要否、内容等は、県の相手方とのかかわり等をしん酌して個別に決定されるという性質を有するものであることから、不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような事態は、交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり、交際それ自体の目的に反し、ひいては交際事務の実施の目的が失われるおそれがあるというべきである。また、これらの交際費の支出の要否やその内容等は、支出権者である知事自身が、個別、具体的な事例ごとに、裁量によって決定すべきものであるところ、交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には、知事においても前記のような事態が生ずることを懸念して、必要な交際費の支出を差し控え、あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ、知事の交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがあるといわなければならない。
そうすると、右二一九件の情報が記録されている文書のうち交際の相手方が識別され得るものは、相手方の名称等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているものなど、相手方の名称等を公表することによって前記のようなおそれがあるとは認められないようなものを除き、本件条例六条五号により開示しないことができる文書に該当するというべきである。
四以上の次第であるから、原審の判断のうち、本件文書における原判決添付別表記載の「相手方が個人」欄中の「識別されないもの」欄の三三件の情報が記録されている部分についてこれを開示しないこととした本件処分を違法とした部分は、正当として是認することができ、この部分に関する論旨は理由がない。しかし、同表記載の「相手方が法人その他の団体」欄の二一九件の情報について、その相手方が識別されるものであるか否かなどの点を個別、具体的に検討することなく、本件文書におけるこれが記録されている部分を開示しないこととした本件処分をすべて違法とした部分は、本件条例六条五号に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。そうすると、この部分に関する論旨は理由があるので、原判決中この部分は破棄を免れず、以上判示したところに従って、右二一九件の情報が本件条例六条五号に該当するか否かにつき更に審理を尽くさせるため、右部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官三好達 裁判官大堀誠一 裁判官味村治 裁判官小野幹雄 裁判官大白勝)
上告代理人谷田容一、同鈴木宗男、同長嶋敏夫、同江連勝明、同国政英夫の上告理由
原判決は、昭和六〇年度知事交際費現金出納簿(以下「本件文書」という。)を非開示とした処分の取消しを求める被上告人の請求に対し、本件文書に記録されている四二二件の交際費支出に関する情報(以下「本件情報」という。)のうち一七〇件の情報が栃木県公文書の開示に関する条例(以下「本件条例」という。)六条一号の非開示要件に該当するとの上告人の主張を認めて、当該一七〇件の情報につき被上告人の請求を棄却したが、右四二二件全部の情報が同条五号の非開示要件に該当し、また、右情報の中に一部同条二号、四号の非開示要件に各該当するものがあるとの上告人の主張をいずれも認めず、右一七〇件を除くその余の二五二件の情報につき被上告人の請求を認容した。
しかしながら、原判決が右四二二件の情報が本件条例六条五号の非開示要件に該当することを認めなかった点には、以下に述べるとおりの条例の解釈適用の誤り、経験則違背、審理不尽及び理由の不備、齟齬の違法があり、これらの違法が判決に影響を及ぼしていることは明らかであるから、原判決のうち右上告人敗訴の部分は破棄されるべきである。
第一 原判決は、本件条例六条五号の適用除外規定、すなわち、「県の機関又は国等の機関が行う検査、監査、取締り、争訟、交渉、入札、試験その他の事務に関する情報であって、当該事務の性質上、公開することにより、当該事務若しくは同種の事務の実施の目的が失われ、又はこれらの事務の公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれのあるもの」との規定について、「本号は前段要件と後段要件に分かれており、前者において、県の機関が行うすべての事務の中から特定の事務を挙げて第一段の絞りをかけ、更に、後者において、一定の要件を定めることによって第二段の絞りをかけ、前段要件に該当する特定の事務であっても、その全部ではなく後段要件に該当するその一部のみを開示しないことができるとしていることが明らかである」とし、右規定中の「その他の事務」の意義について、「法文の構造上、同条に挙示された前示の諸事務(検査、監査、取締り、争訟、交渉、入札及び試験のこと〜上告人代理人註)と類似の事務をいうものと解すべきである」と判示するが、「その他の事務」の意義を右のように限定的に解釈することは、次の理由よりして、本件条例の解釈適用を誤ったものであり、ひいては理由不備の違法を犯しているものである。
一 一般に、法令上「その他の」という用語は、それによって結びつけられる前後の語句が部分と全体の関係にある場合、すなわち、前に置かれた語句が、後に置かれた語句の一部をなすものとしてこれに包含される場合に用いられるものである。この場合、「その他の」の前に掲げられた語句は、「その他の」の後に出てくる、より意味内容の広い語句の例示としての意義を有するに過ぎず、右用語の一般的な用法に従う限り、前の語句(例示)によって後の語句の意味内容が殊更限定されるというようなことはないのである。
例えば、憲法九九条の「その他の公務員」とは公務員のすべてをいうものであり、「国務大臣、国会議員、裁判官等に準じ、あるいはこれらに類する公務員に限られる」というような解釈はされていない。そして、このような用法は国家賠償法二条一項の「その他の公の営造物」、労働基準法一五条一項の「その他の労働条件」、民法一四二条の「其他ノ休日」、同法六四六条一項の「其他ノ物」、商法五九条一項の「其ノ他ノ利害関係人」等々、実定法令中に多数見受けられるところであり、右「公の営造物」、「労働条件」、「休日」、「物」、「利害関係人」等の意義がその前に例示されたものと同種あるいは類似のものに殊更限定されるというような解釈はとられていない。立法に際し、ある語句につき例示規定による限定を施そうとする場合には、「その他これに準ずる収入」(労働組合法三条)、「その他これらに類する営業」(職業安定法三三条の四)というふうに表現するなどの手当がなされているのである。
二 本件条例六条五号の「その他の」の用語も、右のような一般的用法にならったものであり、「その他の事務」とは県の機関又は国等の機関が執行する一切の事務をいうものと解するのが規定の文言に即応した解釈である。また、右六条五号は、県や国等が実施する事務に関する情報で県が保有するものの中にはその事務の適正な実施等を確保するため非公開とすべきものが多数含まれているという認識のもとに、その非公開の要件を定めたものであり、厖大かつ多岐にわたる県、国等の事務のすべてに詳細な検討を加え、これを類型化して、非公開とすべき情報が含まれる可能性のある事務の種類を網羅することは著しく困難であること、条文化に際し「…試験等の事務」とか「…試験その他これらに類する事務」というような表現を用いなかったことなどに照らしても、「検査」、「監査」等の例示は公開の可否が問題となることの多いと考えられる事務を列挙したに過ぎないと解すべきであり、「その他の事務」の意義を殊更限定的に解釈すべき理由はない。
なお、本件条例六条四号は、「県の機関又は国等の機関が行う審議、検討、調査研究等(以下この号において「審議等」という。)に関する情報であって、公開することにより、当該審議等又は同種の審議等に著しい支障が生ずるおそれのあるもの」を非公開とすることができる旨定めている。右の審議等も広い意味では県や国等の「事務」に該当するものであるが、こうした内部的な意思形成作用すなわち行政としての最終的な意思決定までの一段階における作用と、意思決定を踏まえて執行されるところの具体的な事務・事業とは、区別することが可能であり、具体的な事務・事業の適正な執行を確保することとは別個の措置として、意思形成作用それ自体の円滑な運営を確保するための規定を設けることは、十分に意義のあるものということができる。本件条例は、右のような見地から、意思形成過程における情報と事務執行過程における情報とを区別し、前者に係る非開示要件を六条四号に、後者に係る非開示要件を六条五号に掲げたものと解されるのである。したがって、右六条四号の規定は、六条五号の「その他の事務」に県の機関又は国等の機関が執行する一切の事務が含まれると解することの妨げとなるものではない。
三 しかるに、原判決は、右六条五号の「その他の事務」が検査、監査、取締り、争訟、交渉、入札及び試験の各事務と類似の事務に限定されるとして、このことをもって「第一段の絞り」とみなし、この「前段要件」に該当する特定の事務のうち更に同号の「後段要件」に該当するその一部のみが非開示要件に該当する旨の「二段の絞り」論を展開しており、これは明らかに同号の解釈適用を誤ったものである。開示請求に係る公文書に記録された情報が六条五号の非開示要件に該当するか否かは、当該情報が県の機関又は国等の機関が執行する事務に関する情報である限り、端的に「当該事務の性質上、公開することにより、当該事務若しくは同種の事務の実施の目的が失われ、又はこれらの事務の公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれ」があるか否かによって決定されるべきなのである。
四 ところで、原判決は、知事の交際事務が本件条例六条五号の「交渉」に関する事務に類似し、広義においてはこれと同種の事務であるとみることができるとして、右交際事務が「その他の事務」に該当することを認めている。しかし、原判決は、前記「二段の絞り」論に立脚して、「後段要件」に該当する情報は「前段要件」に該当する情報のうちの一部に限られるとの解釈のもとに、次の第二において述べるとおり、本件情報のうち本件条例六条五号の非開示要件に該当するのは、個別的具体的な立証の結果「後段要件」に該当することが証明された特定の情報に限られると断じ、本件情報(全件)が右非開示要件に該当するとの上告人の主張について具体的な判断をほとんど示さないまま、個別的具体的立証がないとの一事をもってこれを排斥しているのである。この意味において、原判決の右条例解釈適用の誤りは、理由不備の違法をもたらし、その違法が判決の結論に影響を及ぼしていることは明らかである。
第二 原判決は、本件情報が本件条例六条五号の非開示要件に該当するとの上告人の主張に対し、同号の「後段要件」に該当することが四二二件の交際事務の案件のそれぞれについて個別的具体的に証拠によって証明されなければならず、非開示決定の適法性が認められるのは右証明のなされた特定の情報についてのみであると判示し、本件情報の公開により、通常生ずべき可能性として、関係者に不快等の念を抱かせるなどして交際事務の実施の目的が失われ、又はその適切な実施を著しく困難にするおそれがあるか否かという点については直接的具体的判断を示さないまま、右個別的具体的な証明がないとの理由で上告人の主張を排斥しているが、これは、以下に述べるとおり、本件条例の解釈適用を誤り、経験則に違背し、ひいては審理不尽、理由不備の違法をもたらしているものである。
一 原判決は、本件文書の内容等につき次の事実を認定している(一五、一六頁)。
(一) 知事は、県の代表者として、その職務執行に関し、広範囲かつ多数の関係者との間で、式典や行事その他の各種会合等への出席、慶弔事案の処理、懇談、接遇、挨拶、その他多岐にわたる交際を行う必要があるが、これらの交際事務は、関係者と県との間の友好、信頼、協力等の関係を形成、維持、確保し、もって県行政の適正かつ円滑な運営を期するために行われるものであること。
(二) 知事交際費は、知事が右のような公の交際事務を行うに当たって必要な経費であり、本件文書は、昭和六〇年度の知事交際費(合計九五〇万円)について、資金前渡員である秘書係長(原判決が引用する第一審判決の五枚目表九行目には「秘書課長」と記載されているが、これは誤記であって、第一審判決の二九枚目《理由欄二枚目》表三行目等において認定されているところの「秘書係長」が正しい。)が右交際費の収支を記帳した会計帳簿であること。
(三) 右交際費の収支のうち、特定の交際事務と関係のない封筒代、葉書代等の雑費一四件を除く交際費支出四二二件の内容は、左記のとおりであり、本件文書には、右四二二件の支出について、その日付及び金額並びに支出項目(御祝、生花、香料、供物、御見舞、接伴、広告、賛助、餞別、雑費)及び交際の相手方(氏名、職名、団体名等)が、日を追って記載されていること。
記
(1) 知事が、各種の式典、祝賀会、大会、会合等に招待され、あるいは各種スポーツ大会等に参加する選手団等から出陣の挨拶を受けた際に、祝賀、協賛、激励等の趣旨で金銭又は生花を贈ったもの(祝儀一六一件)
(2) 知事が、関係者の弔事に際し喪主等に対する弔意の趣旨で金銭(香料)、供物又は生花を贈ったもの、及び関係者の病気、事故等に対する見舞いの趣旨で金銭又は品物を贈ったもの(慶弔一一三件)
(3) 知事が、関係者との間で御礼や信頼、友好等の関係を深める趣旨で懇談等を行った際に、会食等の費用を支出したもの(懇談経費一九件)
(4) 知事が、新聞事業者等との信頼、友好等の関係を維持する等の趣旨で当該事業者等の発行する新聞等に登載する儀礼的な広告(新年の挨拶文等)の広告料を支出したもの、及び公共的な活動を行っている民間団体から訪問、協力要請等があった際、当該活動に賛同する趣旨で儀礼的に寄付を行ったもの(広告、賛助金等六五件)
(5) 知事が、関係者の転勤、海外渡航等に際し、それまでの協力等に謝意を表し、更に今後の信頼、友好等の関係の維持を願う趣旨で儀礼的に金銭を贈ったもの(せん別等二一件)
(6) 知事が、関係者の来訪を受けた際に、信頼、友好等の関係を深める等の趣旨でみやげ等を贈り、あるいは、関係者のこれまでの協力等に謝意を表し、更に今後の信頼、友好等の関係の維持を願う趣旨で記念品等を贈ったもの(贈答品、みやげ等四三件)
また、第一審判決は、知事交際費の運用の実態につき次の事実を認定している(理由欄四枚目表三行目以下)。
(四) 栃木県においては、知事交際費の支出基準につき訓令等の定めがなく、個別的具体的な事案ごとに、先例を参考にして、相手方の地位、県との関わりの濃淡、県に対する貢献度の大小などを考慮し、交際の必要性、交際費の支出の有無及びその金額を決定しており、これらの点に関する判断は知事の合理的な裁量に委ねられていること。
二 上告人は、前記一(一)ないし(四)のような事実関係の下において、本件情報すなわち同(三)(1)ないし(6)のような交際費支出についての相手方、支出項目及び金額を公開した場合には、次の(一)ないし(三)のようなおそれがあるので、本件情報は本件条例六条五号の非開示要件に該当すると主張しているものである。
(一) これらを公開すること自体が儀礼の趣旨に反するものとして、関係者に不信の念を抱かせ、更に、少なからぬ相手方に、金額などが他人に知られるということについての不快、困惑の念を抱かせるおそれがあり、ひいては(1)関係者と県との友好、信頼関係を損ない知事交際事務の実施の目的(前記一(一))が失われるおそれがあるとともに、(2)知事がその裁量により適宜の取捨選択をした上で必要な交際を行っていくこと(前記第一(四))すなわち知事交際事務を適切に実施していくことが著しく困難になるおそれがあること。
(二) 知事交際の対象になった者と然らざる者とを比較し、あるいは交際の内容や支出された金額を比較することなどを通じて、知事ひいては県の当該関係者に対する公的な評価を示すものと社会一般に受け取られがちな前記一(四)の知事の判断結果、すなわち、知事との交際における関係者の相対的重要度が明らかとなり、知事交際の対象者はもとより対象にならなかった者をも含む広範囲の関係者に、右のような相対的重要度が明らかにされること自体についての不快、困惑、不信等の念を抱かせ、また、少なからぬ関係者に、知事の判断の当否などをめぐる不満、不信等の念を抱かせるおそれがあり、ひいては右(1)、(2)のようなおそれがあること。
(三) 知事交際の内容が逐一公開され衆人監視の下に置かれることから、知事の側及び関係者の双方において、交際の要否及びその内容等に関する判断が極度に硬直化したものとなるおそれがあり、ひいては右(2)のようなおそれがあること。
これに対し、原判決は、本件条例六条五号に該当することを理由に本件文書を非開示とした決定の適法性が認められるためには、交際事務の案件のそれぞれについて、これを公開した場合に交際事務の実施の目的が失われる等の結果を生ずることが、個別的具体的に証拠によって証明されなければならず、非開示決定の適法性が認められるのは右証明のなされた特定の情報についてのみである旨判示して、その証明がないことを理由に上告人の主張を排斥している。
三 しかしながら、本件条例六条五号は、県の機関又は国等の機関が執行する事務に関する情報が記録された公文書を非開示とするためには、当該事務の性質上、公開することにより、当該事務若しくは同種の事務の実施の目的が失われる「おそれ」又はこれらの事務の公正若しくは適切な実施を著しく困難にする「おそれ」があれば足りるとしているのであって、実施の目的が失われる等の結果が不可避であることとか、右結果の生ずる危険が具体的に存することや、そうした危険が客観的に明白であることなどまでを要件としているわけではない。そして、「おそれ」とは、その用語の通常の意味として「望ましくない事実又は関係が生じる可能性がある」ことをいうものであり(学陽書房「法令用語辞典」)、右六条五号に関しても、事務の実施の目的が失われる可能性又は事務の公正若しくは適切な実施を著しく困難にする可能性が客観的に認められるならば、同号該当性が肯定されるものと解すべきである。同号は、情報の公開による利益と適正な行政運営の確保という公共の利益との調整を図った規定であり、情報の公開によって事務の実施の目的が失われる等の行政上の弊害が生ずることを未然に防止しようとしたものである。そして、本件条例が、六条二号(法人等に関する情報)において「不利益を与えることが明らか」との要件を定めているのに対し、同条五号において「おそれ」で足りるとしているのは、適正な行政運営が確保されることによる社会公共の一般的利益を私人の経済的利益などよりも手厚く保護する趣旨であると解されるのであり、同条五号の要件を殊更限定的に解釈すべき理由はないものといわなければならない。
また、本件条例六条の規定は、実施機関が公開するか否かを決定する場合の行為規範であるとともに、本件のような行政訴訟において非開示決定の適法性が争われた場合の裁判規範でもあり、後者の場合において、右規定が、当該情報の個別的具体的内容をみることなしに行われる判断(その意味において抽象的・類型的な判断)の基準として機能するものであることは、わが国の訴訟制度上当然のことであって、本件条例もこの点を十分に踏まえた上で制定されたものであることはいうまでもない。本件条例六条五号の規定は、当該情報の種類、性質、抽象的内容等に即して判断した結果、通常生ずべき可能性として、同号にいう「おそれ」があると認められる場合には、当該情報を記録した公文書を開示しないことができるとの趣旨で定められたものと解すべきである。ある情報を右抽象的・類型的判断が可能な程度に分類し、それぞれについて「おそれ」の有無を検討することは必要かつ可能であるが、それ以上に情報を細分化し、各案件の内容を実際にみなければなし得ないような判断をすることは不必要かつ不可能なのである。
四 したがって、本件情報の右六条五号該当性についても、その種類、性質、抽象的内容等に即して判断した結果、通常生ずべき可能性として、関係者に不快感等を生じさせるなどして交際事務実施の目的が失われ、又はその適切な実施を著しく困難にする「おそれ」が認められれば十分であると解すべきであり、「実施の目的が失われる等の結果を生ずること」が「案件のそれぞれについて、個別的具体的に証拠によって証明されなければならない」とした原判決は、右六条五号の「おそれ」につき結果の不可避性ないしはその具体的危険性を要求し、これを個別的具体的に判断しなければならないとしている点において、明らかに同号の解釈適用を誤ったものである。
なお、原判決は、「もし、被控訴人の主張するように、交際事務に関する情報の全部が当然に本号の後段要件に該当するとの考えが正当であるとすれば、非開示か公開かを選別するための特別な要件としての後段要件をわざわざ設ける必要はない訳であり、・・・・・前示のように、交際事務に関する情報は、本号の前段要件に該当する情報であると解する以上、その全部が当然に同号の後段要件に該当するとの考えは採用することができない」と判示する。このうち、上告人の主張をもって「交際事務に関する情報の全部が当然に本号の後段要件に該当するとの考え」としている点は、曲解も甚だしいものである(上告人は、交際事務に関する情報であるがゆえに当然に六条五号に該当するなどと主張しているのではなく、前記二(一)ないし(三)のような「おそれ」があるから同号に該当すると主張しているのであり、このことは、上告人が交際費の総額を示す返納票兼精算票《<書証番号略>》を当初から開示しているという一事をもってしても明らかである。)が、右の判示は、原判決が前述したような「二段の絞り」論に立脚して、「後段要件」の存在を意義あらしめるためには、その該当性の判断が論理必然的に「個別的具体的」でなければならず、本件情報の全部が「後段要件」に該当することはあり得ないというように理解していることを示唆するものである。しかしながら、既に第一で述べたように右「二段の絞り」論自体誤りであり、また、「後段要件」が原判決のいうような意味での個別的具体的判断を要求しているとは到底解することができないものである。
五 加えて、四二二件の交際事務の案件のそれぞれについて本件条例六条五号の「後段要件」に該当することが個別的具体的に証拠によって証明され、その証明がなされた特定の情報のみが同号の非開示要件に該当するとの原判決の判示は、そのような「特定」が可能であることを当然の前提としているものであるが、前記一(三)(1)ないし(6)の交際費支出の個別的具体的内容(相手方、金額等)を公開した場合に相手方その他の関係者のうちの誰がいかなる感情を抱くことになるかなどを、その公開前に具体的に判定し、関係者に不快等の感情を生じさせるおそれがあるものと然らざるものとを案件ごとに特定・識別するというようなことは、事実上不可能なことである。また、前記二(二)、(三)の主張は、本件情報が公開されると、知事との交際における関係者の相対的重要度が明らかとなって関係者に不信感等を生じさせるおそれがあり、知事交際の内容が衆人監視の下に置かれて交際の要否、内容等に関する判断が硬直化するおそれがあるというものであり、このような、複数の案件につき金額等の比較がなされることや本件情報の全容が公開されることによる「おそれ」の有無を各案件ごとに判断し得るということは、論理矛盾である。
したがって、右のような特定・識別が可能であることを前提としてなされた原判決の右判示は、明らかに経験則から逸脱した不合理な判断であるといわなければならない。
六 本件情報の公開により、通常生ずべき可能性として、前記二(一)ないし(三)の「おそれ」が認められるか否かということは、知事交際事務の意義、目的(前記一(一))、交際費支出の内容(同(三)(1)ないし(6))、交際費運用の実態(同(四))等の事実関係に照らし、相手方その他の関係者がわが国における社会一般の常識と通常の感受性を備えたごく普通の社会人であるとした場合に、これらの関係者がいかなる感情を抱くに至るであろうかということなどを経験則に基づいて予測することにより、十分に判断することができる筈である。そして、右判断の結果、上告人の主張する「おそれ」が認められないというならば、前記二(一)ないし(三)の主張のそれぞれについて、これが認められないこと及びその理由が具体的に説示されてしかるべきである。
しかるに、原判決は、交際費運用の実態(前記一(四))につき審理判断をせず、上告人の右各主張に対する具体的判断を示さないまま(もっとも、前記二(一)の主張との関係では相手方等の関係者に不快等の感情を生じさせるか否かなどについて不十分ながらも一応の判断をしているようであるが、次の第三において述べるとおり、その趣旨は必ずしも明確でない。)、個別的具体的な証明がないとの一事をもって上告人の主張を排斥しているのである。
原判決は、以上の点において、本件条例の解釈適用を誤り、経験則に違背し、ひいては審理不尽、理由不備の違法を犯したものであって、この違法が判決に影響を及ぼしていることは明らかである。
第三 原判決は、本件情報を公開することは、必ずしも相手方等の関係者に不快等の感情を生じさせることになるとは限らず、場合によっては、むしろ反対に、知事との交際が公表されることを名誉に思う者もあり、また、不快等の感情を生じさせた場合でも、その程度が交際事務の実施の目的を失わせる等の結果を招くほどに強度のものでないことも多い筈であるとして、上告人に、交際事務の案件のそれぞれについての、右不快感等の程度や「実施の目的が失われる等の結果」を招くことの蓋然性の立証責任を課し、その立証がないことを理由に、本件情報が本件条例六条五号に該当することを否定しているが、この判旨が、前記抽象的・類型的判断による通常生ずべき可能性としての「おそれ」を否定したものであるとすれば、次に述べる点において、判決に影響を及ぼすことの明らかな本件条例の解釈適用の誤り、経験則違背、理由の齟齬ないし不備、審理不尽の違法があるといわざるを得ない。
一 まず、原判決は、「経験則上、右のような情報の公開は、必ずしも相手方等の関係者に不快等の感情を生じさせることになるとは限らない。場合によっては、むしろ反対に、知事との交際が公表されたことを名誉に思う者もあるであろう」と判示するが、これは、本件文書に記録された情報を公開することは、原則として相手方等の関係者に不快等の感情を生じさせるものであるが、四二二件の交際事案の相手方の中にはそのような感情を抱かず反対に名誉に思う者もあり得る、との趣旨にも解されるものである。
そうであるとすれば、右の情報は本件条例六条五号に該当するものであること、すなわち、その公開によって知事交際事務の実施の目的が失われる等のおそれがあることが肯定されてよい筈である。第二の三において述べたように、本件条例六条五号は実施の目的が失われる等の「おそれ」があれば足りるとしているのであり、右「おそれ」の有無は、当該情報の種類、性質、抽象的内容等に即して判断した結果、事務の実施の目的が失われる等の可能性が認められるか否かによって決定されるものと解すべきであって、本件情報の公開が原則として相手方その他の関係者に不快等の感情を生じさせるものであることが認められるならば、経験則上、通常生ずべき可能性として、関係者に不快感等を生じさせるおそれがあること、ひいては、関係者との信頼関係を損なうなどして交際事務の実施の目的が失われるに至るおそれ、知事が適宜の取捨選択により必要な交際を行うことができなくなって交際事務の適切な実施が著しく困難になるおそれのあることが認められてしかるべきである。「場合によっては知事との交際が公表されたことを名誉に思う者もあるであろう」というような漠然とした推論によって、右の通常生ずべき「おそれ」を否定することはできないといわなければならない。
したがって、原判決が、本件情報の公開が原則として相手方等の関係者に不快等の感情を生じさせるものであることを認めながら、それにもかかわらず本件条例六条五号の「おそれ」を否定したものであるとすれば、同号の解釈適用を誤って右「通常生ずべき可能性」では足りないとし、又は経験則に違背して右「通常生ずべき可能性」を否定した違法があり、ひいては理由に齟齬をきたしているものである。
二 右の点に関し、原判決は、「たとえ不快等の感情を生じさせた場合でも、その程度は、交際事務の実施の目的を失わせる等の結果を招くほどに強度のものではないことも多い筈である」として、上告人に、具体的に右不快感等の程度やそれにより「実施の目的が失われる等の結果」を招くことの蓋然性についての立証責任がある旨判示する。
しかしながら、交際という行為は相手方の心情にうったえかける営みであって、知事の公の交際といえどもその例外ではなく、相手方等に不快等の感情を生じさせた場合に、友好、信頼、協力等の関係(これは、相手方の心情によって左右されるものである。)が損なわれ、交際事務を実施する目的が失われてしまうこと、あるいは今後の交際事務(これも、右同様関係者の心情によってその成否が左右されるものである。)の事案に即した適切な実施が著しく困難になってしまうこと(少なくともそれらのおそれがあること)は、経験則上明らかというべきである。したがって、不快等の感情を生じさせてもなおかつ交際事務の実施の目的が失われる等のおそれのない場合が「多い筈」であるとして、上告人が具体的に不快感等の程度などを立証しない限り本件条例六条五号該当性が認められないとした原判決の右判示は、経験則に反する著しく不合理な判断である。なお、原判決が求めるごとく右不快感等の程度を事前に推し量るというようなことは、仮に相手方その他の関係者を特定し、その性格、地位、職業等や支出された金額の多寡などを勘案したとしても極めて困難であり、ましてや、これらの事項を明らかにし得ない公開の法廷で「不快感等の程度」を立証するようなことは、いかに「相応の工夫」をしたとしても不可能であるといわざるを得ない。
三 ところで、原判決は、相手方が「知事との交際が公表されたことを名誉に思う」場合の例として、「スポーツ大会や祝賀会に激励等の趣旨で金銭又は生花を贈ったもの」を挙げ、「このことが公表されたとしても、通常の場合に、相手方が不快感を抱き実施の目的が失われる等の結果に至るものとは考え難い」と述べており、この部分と「必ずしも相手方等の関係者に不快等の感情を生じさせることになるとは限らない。…」との部分とを合わせ読むと、原判決のこれらの判示は、前記一のような趣旨ではなく、本件情報を公開したとしても、これによって不快等の感情を抱く者はむしろ少なく、通常、相手方その他の関係者に不快等の感情を生じさせるおそれがあるということは認められない、との趣旨であると解することもできる。
しかしながら、右の、スポーツ大会や祝賀会に係る「御祝」の内容が公開されたとしても通常の場合に相手方等が不快感を抱くとは考え難い旨の判断は、経験則に照らし到底是認し得ないものである。わが国の国民性及び社会通念上、右「御祝」等の金額までが世間一般に公表されることは相手方の通常望まないところであり、これが公開された場合には、むしろ、相手方に不快等の感情を生じさせるおそれが極めて大きいというべきである(この点において、原判決と第一審判決とは全く相反する判断を示しているが、第一審判決の方が経験則に合致した極めて常識的な判断といえるであろう。)。また、個別的具体的な事案ごとに、相手方の地位、県との関わりの濃淡、県に対する貢献度の大小などを考慮しながら決定された支出金額等についての格差がそのまま公開された場合には、格差のあることそれ自体、あるいはそのような格差に関する世間一般の比較対照の目にさらされること(被上告人は、交際費の使途等に関する住民の「監視」の必要性を強調している。)について、多くの関係者が不快等の感情を抱くであろうことも、容易に推察されるところである(前記第二の二(二))。なお、以上の点は、相手方が個人である場合と法人その他の団体である場合とで異なるものではない。団体の祝賀会等に対する知事の「御祝」の金額までが公表されることは、当該団体(具体的にはその役職員等)の通常望まないところであり、また、各団体間における金額等の格差の内容が明らかにされた場合には、そのような格差をつけたことなどに関し不信感等が生じ、友好、信頼、協力等の関係を損なうおそれが大きいのである。この点に関する原判決の判断には明らかな経験則違背があり、また、第一審判決が認定した交際費運用の実態(前記第二の一(四))につき審理判断せず、右「金額等の格差」から生ずる問題を顧慮していないと解される点において審理不尽の違法がある。
前記第二の一(三)(1)ないし(6)の交際費支出について、その相手方、金額等を逐一公開した場合に、通常生ずべき可能性として、相手方その他の関係者に不快等の感情を生じさせるおそれがあり、ひいては交際事務の実施の目的が失われ、あるいは交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがあることは、経験則上優にこれを認めることができるものである。
したがって、原判決が、本件情報を公開しても、通常、相手方その他の関係者に不快等の感情を生じさせるおそれがあるとは認められないとの判断をしているとすれば、経験則違背、審理不尽の違法があり、更に、本件条例六条五号の解釈適用を誤って、前記第二の一(一)のような知事交際事務の意義及びこれによる関係者との信頼関係等の維持、確保の重要性(信頼関係等がいったん損なわれてしまった場合には、これを回復することは極めて困難なのである。)を不当に軽視した違法があり、ひいては理由不備の違法を犯しているものである。
四 なお、原判決が、右の、通常、相手方等の関係者に不快等の感情を生じさせるおそれがあるか否か、ひいては交際事務の実施の目的が失われるおそれ、その適切な実施を著しく困難にするおそれがあるか否かという点について積極、消極いずれの判断もせず、四二二件の案件の中には不快等の感情を生じさせるものと然らざるものとがあり、前者であって、当該情報の公開により交際事務の実施の目的が失われる等の結果を生ずるものであることが個別的具体的に証明された特定の案件についてしか、本件条例六条五号の該当性を認める余地はないと判示しているとすれば、同号の解釈適用を誤り、経験則に違背し、ひいては審理不尽、理由不備の違法を犯していること、前記第二のとおりである。
<注>原判決添付の別表は、本件文書に記載された情報を、種別、相手方別に分類整理したもので、次のような内容となっている。
別表
種別
摘要欄の
支出項目
相手方が個人
相手方が
法人その
他の団体
計
識別され
るもの
識別され
ないもの
祝儀
御祝
39
1
113
153
生花
8
8
小計
39
1
121
161
慶弔
香料
50
50
供物
23
2
25
生花
30
1
31
御見舞
6
1
7
小計
109
2
2
113
懇談経費
接伴
2
17
19
広告、賛助金等
広告
29
29
賛助
36
36
小計
65
65
せん別等
餞別
17
4
21
贈答品、みやげ等
雑費
3
9
31
43
合計
170
33
219
422
封筒代、葉書代等
雑費
14
支出件数総計
436